若手歯科医師の家族で留学奮闘記

一般歯科医師が,卒後8年目から家族でのアメリカ留学を目指すブログです.

【Floss or Die?】フロス,してますか?【フロスが意味ないってほんと?】

どうも,歯科医師のsyuです.

 

みなさん,フロスは使ってますか?

よく糸ようじと言われるあれです.

 

歯磨きをする時に,みなさんどんな道具を使ってますか?

歯ブラシのみ?そういう人が多いですよね.

歯間ブラシ?フロス?

はたしてどのくらいの人が歯ブラシ以外のこれらの道具を使っているのでしょうか?

 

フロス使ってる?

少し古い調査ですが,H22年国民健康栄養調査によると,

口腔清掃用器具の使用状況として,

歯ブラシ・・・96%

歯間ブラシ・・・20%

フロス・・・12%

という結果が報告されています.

 

9割方の人はフロスを使っていないんですね.

 

ちなみにアメリカでは1997年のICSⅡ国際調査という調査において

子供たちの63%がフロスを使用しているという結果が報告されています.

いかに日本においてフロスが浸透していないかがよくわかりますね.

 

かつてアメリカでは,

 

”Floss or Die”

 

という強烈なスローガンがあり,アメリカ歯科医師会,アメリカ歯周病学会等によりフロスの使用が推奨されました.

フロスを使用しなければ十分に歯垢が除去できず歯周病が進行し,歯周病は全身疾患を悪化させるため命につながる,ということのようです.

それだけ口腔清掃の重要性が認識されているんですね.

 

 

フロスに意味がない??

しかし少し前にこんな記事を目にしました.

healthpress.jp

 

ん??

フロスって効果ないの?

これはAP通信が行った調査で,

フロスの効果を裏付ける十分なエビデンスはない

という結論のようです.

 

この記事だけ読むと,そもそもフロスの「効果」とは何を意味しているのか?

など,突っ込みどころはいろいろありますが,せっかくなので文献を当たってみましょう.

 

本当にフロスに意味はないのでしょうか?

 

 

フロスの効果とは? 

そもそも歯ブラシだけでは良くても全体の6割ほどしか歯垢が除去できないと言われており,お口全体でそれなので歯間部(歯と歯の間)においてはそれ以上に磨けていないことは想像に難くないですね. 

 

そこで外側と内側は歯ブラシで頑張るとして,歯間部の清掃のための器具が歯間ブラシでありフロスなのです.

 

文献的にも通常の歯ブラシだけで十分に歯間部を清掃することは不可能で,歯間部を貫通する器具(つまり歯間ブラシやフロス)が必要であると報告されています(Van der Weijden & Slot, 2011) .

 

さらに,1日に1度,歯ブラシに加えて歯間部の歯垢をきちんと除去できれば,歯肉炎や歯間部のう蝕(虫歯)を予防できるということも報告されています(Axelsson, 1994,Lang et al., 1973).

 

やはり,フロスには「意味」があるんですね.

 

 

しかし,科学的にどの程度の根拠(エビデンス)を持って意味があるといえるのかというと...

 

 

 科学的根拠は十分とは言い難い

科学論文をいくつも吟味して一般的にもっともエビデンスレベルが高い,つまり学術的に信頼度が高いといわれるものにコクランレビューというものがあります.

 

それによると,

 

・通常の歯ブラシに加えてフロスの使用が歯肉炎の予防に効果があるとする質の低いエビデンスが存在する.

・「歯ブラシ+フロス」よりも「歯ブラシ+歯間ブラシ」の方が歯肉炎を予防できる質の低いエビデンスが存在する.ただし1ヶ月の観察期間で.

・フロスの使用が歯間部のう蝕を予防するというエビデンスはない.なぜならう蝕の経過をみるだけの長期的な研究が不足しているから.

 

ということのようです.

 

 

結局...?

上記の日本語記事だけを読むと,

 

「いままで散々フロス推奨されてきたけど意味なかったんだって.」

「じゃあ使う必要ないね.」

 

みたいになってしまいそうですが,

決してそうではないと思っています.

 

先にも書いたように,上記記事に書かれているフロスの「効果」という表現がいまいちであるということ.

 

何が「効果」なのか?

歯垢除去できるかどうか?

歯肉炎を予防できるかどうか?

口臭を予防できるかどうか?

 

つまり,表現が曖昧すぎて何にフォーカスをあてているのか本質がつかめないのです.

 

今回簡単に論文を調べてみた限りでは,繰り返しになりますが,

 

・通常の歯ブラシに加えてフロスの使用が歯肉炎の予防に効果があるとする質の低いエビデンスが存在する.

・「歯ブラシ+フロス」よりも「歯ブラシ+歯間ブラシ」の方が歯肉炎を予防できる質の低いエビデンスが存在する.ただし1ヶ月の観察期間で.

・フロスの使用が歯間部のう蝕を予防するというエビデンスはない.なぜならう蝕の経過をみるだけの長期的な研究が不足しているから.

 

ということなのです.

(ちなみにう蝕に関しては研究期間以外に,フッ素の使用や糖摂取などの食習慣,唾液の性質など様々な要因が絡むので 一概に結論を出せないということがあるようです.)

 

つまり,簡単に言うと,

 

科学的に確固たる根拠があるというほどではないけど,

 ・フロスした方が歯肉炎の予防になるよ

 ・フロスより歯間ブラシの方がさらに歯肉炎の予防になるよ

虫歯の予防になるかはわかってないよ

 

 ということですね.

 

使用することのデメリットはないので,個人的にフロス使った方が良いと思います.

 

さらにフロスを使えばひっかかりがあるかどうかで詰め物がぴったり合っているかどうかわかったり,虫歯の早期発見に繋がったりするメリットもあります.

 

歯間ブラシは狭い隙間に無理やり通すと歯茎が下がることがあるので,もともと歯と歯の間が大きく空いている場合に用いるのが良いと思います.

 

以前スウェーデンの歯ブラシメーカーのTepe社の歯科衛生士さんの話を聞く機会がありましたが,Tepe社としてはフロスではなく歯間ブラシを推奨していました.

 

 

ちなみにうちの空豆さん(娘1歳)は歯ブラシの使用に加えてフロスしてます

うちで使用しているフロスはこれ↓

歯科医院やハンズなどには売ってるけど,ドラッグストアにはあまり置いてません.

 

ドラッグストアとかにも置いてるのだと

これが同様の形ですが,個人的には一つ目のウルトラフロスという商品の方が糸の質感が好きです.(この辺は好みかと.どちらの方が歯垢が除去できるなどのデータはないと思います.)

 

これらのフロスが使いやすい理由としては持ち手とフロスが直行する向きになっていること.GUMなどでもフロスがありますが持ち手とフロスが同じ向きになっているのです.

そうすると奥歯に使用する際に真横から入れないといけなくなります.

 

上に紹介した形なら,まっすぐ挿れれは自然と歯と歯の間に入る向きに糸が張られているので使用しやすいと思います.オススメです.

 

 

 

以下,歯科関係者の方以外興味ないと思われる内容です.

 

勘の良い方はお気づきでしょうか?

僕の書き方が「質の低いエビデンスが『存在する』」という表現であること.

日本語というのはニュアンスの言語なので,同じ

 

There is low-quality evidence that ~.

 

と書かれていた時,

エビデンスの質は低い」「十分なエビデンスは存在しない」と訳す人もいるかもしれませんし,

「質の低いエビデンスが存在する」と訳す人もいるかもしれません.

 

事実は同じなのですが,前者の方がより否定的に感じます(僕だけ?).

 

何が言いたいかというと,上記記事の

「効果を裏付ける十分なエビデンスがない」

という日本語は,

本来英語でなんと書かれていたかわからないのです.

が,今回僕が紹介したように「質の低いエビデンスが存在する」という表現であった可能性が高いと推測します.

日本語に訳される過程で,多少肯定的な表現にも完全に否定的な表現にもなりうるということです.

 

これは些細なことのようで実は重要なことで,何かを調べる,論文を読む際に訳された文章を鵜呑みにしてはいけないということですね.

できれば原文で読むのが基本ですね.

同じ事実でも否定的な表現で理解すると無意識のうちに否定的な方向へ思考してしまいかねません.

 

僕が偉そうに言えることでは全くないですが,もし歯科学生の方やこれから論文をよんでみようかという歯科関係のかたがこれを読まれていたら,ぜひ頭の片隅に置いておいていただきたいと思います.知らないうちに自分のバイアスで物事を理解してしまわないように.

 

単なる事実のみをただ淡々と理解することが重要だと思います.

僕も研究をしていた時にボスに口を酸っぱくして言われていました.

 

そんなわけで,フロスの意義を考えるとともに,論文を読む時の注意点にもクローズアップしてみたブログでした.

 

では,また.

 

【追記】

他の歯科医師の方も言われていることですが,論文の解釈として,上に書いたことはその通りですが,さらに付け加えるべきこととして,フロス使用群の被験者が正しい使い方をできているのかという問題があります.

臨床現場の実感としてフロス使用者のうちで本当に正しく使用できている人はごく少数であろうと予測できます.フロス使用してますという方の口の中をみるとかなり歯垢が残っているというケースは非常に多いです.

そうなると,「フロスを使用しても効果がない」となってしまいます.

しかし本当に正しく使用できていれば結果はかなり異なるものになることは想像に難くありません.

ここら辺もこの研究の bad point ですね.

 

※お前の論文解釈まちがってるよ,もっとこう考えるべきじゃない?などありましたら,遠慮なくご指摘ください.僕も人様に偉そうに言えるほどのものじゃないので,ご指導いただけるとありがたいです.

 

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